2020年1月29日

【対談】熊澤酒造 熊澤茂吉さん×松尾建設 青木隆一さん|豊かな地域のつくり方(後編)

written by storyMarche
in category レポート

建設業と蔵元。業種は違えど家業を継承した松尾建設株式会社代表の青木隆一さんと、熊澤酒造株式会社代表の熊澤茂吉さんの対談を、前後編に渡ってお届けしています。

移り変わる時代の中、自分の代で新たなチャレンジを行い、事業を進化させながら、地元に人の集まる場を創出しているお2人。前半のお話では、お客さんに喜ばれるものをつくるという原点や、自分自身が描く未来の姿を見据えながらも、お客さんの声を聞き逃さずに少しずつ積み重ねていくことの大切さが話題に上りました。後半はどんなお話が聴けるのでしょうか?

 

熊澤茂吉(くまざわもきち)さん

湘南唯一の蔵元 熊澤酒造株式会社 代表取締役社長。茅ヶ崎市香川の地で約400年続く熊澤家の13代目。大学卒業後アメリカを放浪するも、蔵元廃業の危機的タイミングで帰国し24歳で家業を継ぐ。日本酒のブランディングやビール醸造の開始、レストラン、ベーカリー、ギャラリーの開設など新たな事業展開で、地域に活気のある生態系を生み出している。

 

青木隆一(あおきりゅういち)さん

松尾建設株式会社 代表取締役。地元茅ヶ崎で70年以上続く建設会社の3代目。湘南を中心に家族が幸せになる家づくりを提案している。2013年7月より「茅ヶ崎ストーリーマルシェ」を立ち上げ、開催回数はもうすぐ40回を迎える。こだわりの品を集結させ、笑顔と会話が楽しめる、地域の方々に愛される朝市となるよう運営を行っている。

食事以外でも地域の人が集まる場所を

okeba gallery & shop  Via:https://www.kumazawa.jp/mokichi/okeba/

青木さん:日本酒から始まって、ビールやレストラン、ベーカリーなど食の方向に広がっていったのは自然な形だなと思います。その中で、敷地の中にギャラリーがあるのが不思議だったんですが、なぜなんですか?

茂吉さん:ギャラリーは2011年に、自分の好きな物を集めてオープンさせました。もともと古い物やインテリアが好きで気がつくと買っているので、実はストックがたくさんあるんですよ。

それと、もう一つの理由は、僕の祖父や祖母から聴いていた「酒蔵は元来、地元の人たちが集まる場所だった」という話です。この地域は今でこそ住宅街になっていますが、昔は辺り一面、田んぼだったんです。そこでみんな昼間は汗水垂らして働いて、日が暮れると徳利を持ってうちに酒を買いに来ていた。顔見知りと会えば話が始まって、その場で飲み出したりして。祖母はそういう人たちに、ちょっとした酒のつまみを出してあげたりしていたんです。年に1度はみんなでここでお祭りをしたりね。そういう話を聴いて、良いなぁと思っていました。

okeba gallery & shop  Via:https://www.kumazawa.jp/mokichi/okeba/

茂吉さん:レストランが軌道に乗って、いつの間にか「熊澤酒造さんは食事をしに行く所」というイメージが浸透していったんだけど、本来は食事以外でも地域の人が集まる場所にしたかった。そこで、地元のつくり手の作品を買えたり、ワークショップに参加できたりするギャラリーをつくりました。日本のあちこちにある酒蔵を歩くと、実は江戸時代に葛飾北斎が泊まっていた、なんていう史実があるんです。昔からアーティストと酒蔵は相性が良かった。それを現代に再現しているような感覚もあります。

青木さん:ギャラリーで取り扱うアーティストさんの選定も、ご自分でされているんですか?

茂吉さん:そうです。基本的には自分の好きな物を置きたいから。若い人でも良いつくり手がいますしね。

青木さん:うちの茅ヶ崎ストーリーマルシェも、新規で出会うお店の方とは、必ず僕がお会いしてお話を聴くようにしています。やはり想いのあるもの、ストーリーのあるものを一生懸命やっている人を応援したいので。

蔵元が蔵元としてちゃんと機能することが地域貢献

青木さん:茂吉さんは、湘南エリアを今後どういうふうにしていきたい、などの想いはおありなんですか?

茂吉さん:僕が入社した時に社訓をつくったんですよ。「よっぱらいは日本を豊かにする。」っていう。当時、将来はこうしたい、ああしたいっていうのはいろいろあったけど、まずはこの言葉を会社の真ん中に置いた。そう信じてるからね。

湘南エリア全体をどうこうしたいというのは正直あまりピンと来ないんだけど、僕は「湘南×酒蔵」をこれからも表現していきたいと思っています。昔はたくさんあった蔵元も、今は湘南にうち1軒しかないんです。だから、その蔵元が蔵元としてちゃんと機能することが、いちばんの地元への貢献だし、地域が良くなることだと思います。

この地域が抱えている課題もあって、以前、養豚が地域からなくなりそうだと分かって、それを残していくためにソーセージづくりを始めたものの、数年前に結局廃業してしまいました。そうした経験から、早く本格的に取り組まないと、地域の食文化はなくなってしまうと危機感を持つようになりました。

次に危険なのは水田なんです。僕が生まれる前はこの一帯は田んぼだったんだけど、おそらくこのまま行くと、10年後には茅ヶ崎で田んぼをやる人がいなくなる。新潟などは酒蔵が農家を買い支えているんです。だとすると、寒川からこの一帯の田んぼは、うちが買い支えなきゃならないと思う。

春からは自社でも田んぼを始める予定です。田んぼをやるのに必要な農機具や倉庫を用意したり、必要な許認可を取ったりするのはお金もかかるし大変なんです。でも挑戦しようと思って。

地域を次世代へつないでいく

青木さん:大工も同じかもしれないです。家をつくる、家を守る大工は、昔から地域で頼りにされる存在だったんですよね。まちづくりは、先代が残した良いものを、次の世代へまた残していくことが大切だと思います。もちろん時代に合わせて進化させないといけない部分もあるけど、受け継いでいくべきものもある。

茂吉さん:最近のプロジェクトとしては、うちの裏山の上に2019年の11月に保育園を開きました。熊澤酒造で働いている人の子どもと、地域の子どもが通う保育園。

青木さん:それは良いですね。子どもの頃からこの地域の自然、農業、お酒造りや熊澤酒造さんのいろんな事業、それに関わる人と人とのつながりを体感しながら育つと、この地域への愛着や感謝が大人になった時にきっと湧いてくる気がします。

<まとめ>

蔵元と大工。業種は全く異なりますが、地域の中で頼りにされたり、みんなが集まってくるような中心的存在だという共通点がありました。だからこそ、その土地に根差し事業をしっかり続けることが、地域を豊かにすることだという茂吉さんの言葉にハッとさせられた対談でした。先代が残した地域の資産を大事にしながら良い形で次の世代へ渡し、地域をつないでいく。茅ヶ崎ストーリーマルシェが、そのバトンを渡す良い中継地点になると良いですね!

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